【 夏希 】 「ふぅ、今日も暑くなりそうね」
 

 日差しを遮りながら、夏姉が澄みきった青い空を見上げる。

【 疾風 】 「うん。夏姉は部活の方はどうなの?」
【 夏希 】 「どうって?」
【 疾風 】 「ああ、その調子はどうかなって思って。バレー部みたいに全国は難しいかもしれないけど、
 大会自体には出場するじゃないか」
【 夏希 】 「そうね。まあ、調子は悪くない。ううん、どっちかっていうといいかな」
 

 俺の問いかけに、夏姉は笑顔でそう告げる。

【 疾風 】 「そっか」
【 夏希 】 「……そういう疾風こそ、変な夢は大丈夫なわけ?」
【 疾風 】 「それなら大丈夫だよ。昨日も今日も見てない」
【 夏希 】 「そっ、ならいいわ。あたしのおまじない、なんだかんだで効果があったみたいね」
 

 キスのことを思い出しているのか、夏姉の頬がほんのりと赤く染まっていく。

【 疾風 】 「そうかもしれない、かな」
 

 夏姉の言葉、仕草に、俺もおまじない……キスのことを思い出してしまい、顔が火照ってくる。

【 夏希 】 「ちょっと、なに顔を赤くしてるのよ。キスのことは気にしないって言ったでしょ」
 

 顔を赤くしている俺を、ジト目で睨む夏姉。

【 疾風 】 「ちょっと待ってよ。キスのことなんて一言も言ってないじゃないか」
【 夏希 】 「でも、今、思い出してたでしょ?」
【 疾風 】 「うっ、それは……まあ、ちょっとだけ。でもさ、夏姉のキス……じゃなくて、おまじないのこと、
 完全に忘れるなんて無理だよ」
【 夏希 】 「無理っていう前に忘れる努力をしなさいって言ってるのよ」
【 疾風 】 「簡単に言ってくれるなぁ」
【 夏希 】 「あたしじゃなくて、冬姉はどうなの? 子供の頃に冬姉にキスされた時のこと、まだ覚えてるわけ?」
【 疾風 】 「えっ、まあ、ちょっとだけ覚えてるよ。ガキだった当時としてもかなり衝撃的な出来事だったから」
【 夏希 】 「そうなんだ。冬姉にキスして貰って嬉しかったのね、疾風は」
【 疾風 】 「えっ、嬉しいも何も、子供の頃、しかも遊び半分でしたキスだから何とも言えないよ」
【 夏希 】 「けど、きちんと覚えてるくらいには嬉しかったのよね?」
【 疾風 】 「いや、衝撃的=嬉しいわけじゃないけど、嫌ではなかったかな」
【 夏希 】 「そうなんだ。冬姉のキスは嬉しかったのね、疾風は」
 

 俺の返答が気にくわなかったのか、夏姉がジト目で俺を睨みつつ頬を膨らませる。

【 疾風 】 「別に嬉しかったわけじゃないって」
【 夏希 】 「でも、嫌じゃなかったのよね?」
【 疾風 】 「そうだけど、嬉しかったって決めつけるのはちょっと横暴ではないかと」
【 夏希 】 「はいはい。どうせ、あたしは横暴な女ですよ。春姉みたいに優しくないし、冬姉みたいに格好良くもないし」
【 夏希 】 「冬姉のと違って、あたしとのキスはすぐに忘れることが出来るんじゃない」
 

 俺を置いて、スタスタと足早に先を行ってしまう夏姉。

【 疾風 】 「あっ、ちょっと夏姉!?」
【 疾風 】 「まったく、なんなんだ。忘れるように言ったかと思えば、忘れると嫌なような言い方して、
 どうすりゃいいんだよ、俺は」
 

 そう嘆きつつ、俺は機嫌を悪くした夏姉の後を追いかけるのだった。